STEMの実践的課題 ポジションステートメント

興味関心と探究活動

2019年10月17日
 株式会社リバネスさんの実施する教員向けワークショップ「生徒の一人一人の興味関心を探究活動に落とし込む方法」に,オブザーバーとして参加させていただいた.参加者は,基本的には高校の先生が対象だったと思うのですが,小学校や中学校の先生もいらっしゃったようです.熱心ですね.
 この投稿は,当該ワークショップでの学びのまとめと,私の考える「方法」について,書いていきます.

 さて,私はというと,次世代科学者育成プログラム等で,自由研究指導をしてきた経緯から,自由研究を中心にSTEM教育活動を計画・研究しており,これから探究活動などを学校で行っていくにあたって,先生方はどういう課題をお持ちでいらっしゃるのかというのに,興味があったわけです.

問い1:そもそもどんな「研究」を目指すか?

答えが見つからない問いに対して自ら仮説を立て,
答えを見つけ出す研究

当日スライドより

 私も近いことを思っていて,児童生徒が自由研究をやりましょうとなると,大体がこれまでに誰かがやったものを(引用もせず)そのままやるか,あるいは,親や先生が与えてしまうことが多いのかなと思うのですが,まずは本人の問いからスタートするというのが,大事なポイントかと思います.
 もう一つは,必ずしも現実の科学者の間で既に知られていることをすべて考慮した問いや仮説ではなくてよい,ということがここでの主張です(これは,実は課題研究全体の在り方にも関わってくるので,後程触れます).

問い2:「問い」はどのようなものが良いか?

 ここについては少し自分の主張も入れていきますが,まずは,検証可能であること.これは,とても重要な話で,実は子どもたちの立てる研究課題(Research Question)は,検証方法を度外視しているものが多いです.それは,ある意味当たり前で,彼らは検証するということ自体をやってみたことがないからです.
 これって,実は多くの教員にも当てはまって,自ら問いを立ててそれを検証するとかって,これまでの経験の中でやってない場合が結構あると思います.
 そこで,いろいろ疑問に思うことを毎日,毎時間,メモっていくというような習慣も,(子供はもちろん大人も)一部必要かと思います(これについては,後日紹介します).

 それから,疑問文の形についてですが,良く言われるのは5W1Hですよね.
 Why, Where, When, Who, Which, そしてHow
 これは,経験則ではありますが,Whyを研究の問いにすることは,避けた方が良いです.ほぼ,検証可能になることはありません.ただ,最初に子どもがそう問いを立ててきたときに,検証可能な問いに分解していく作業があればいいわけで,今回のワークショップで御紹介いただいた「研究曼荼羅」みたいなものは,その段階で役に立つなと思いました.

この辺も参考になります
問いの「因数分解」から見えてくる、問いの5つの基本性質

 ということで,大きな問いを立てるのは,研究のモチベーションとして,必要ですが,それが大きいまま時期が過ぎてしまうと,逆にモチベーションも下がるので,注意が必要.といったところでしょうか.
 もう一つ,科学的研究の原則なども見てみましょう

1.経験的に調査できる有意な問いを提起すること
3.問いの直接的な調査を可能にする方法を利用すること

科学的研究の原則

こういった,科学の原則を考えると,そもそも問いは,方法によって解答が可能になるので,方法が成立しない問いは,解答不能ということになります.そういう問いを立てられるように導いてあげるのは,課題研究を指導する上で,大きなウエイトを占めることになります.

問い3:問いはどうやって見出すか?

生徒の興味から「問い」を作り出す

当日スライドより

 これは,当日のテーマでもあり,一番大事なポイントですね.私も,ここは絶対に外してはならないポイントだと思っています.
 これに答えるうえでは,2つくらいに分けて考えてみましょうか.一つは,いろんなことに興味があって,それを疑問形にしてあげればよい場合.もう一つは,全く普段から疑問などという形で,考えてはいないので,そもそも疑問を持つということが必要な場合.

 一つ目の場合には,先にも出てきた「研究曼荼羅」のようなやり方もいいですし,私たちがやってきたように,ブレインストーミング(ライティング)のような形で,思いつく問いや課題をどんどん挙げていくというやり方もできます.
 あとは,4W1Hをどのように,検証可能な問いにしていくのかという段階ですね.実は,ここもある程度検証できる問いのパターンってあるように思います.例えば,いろんな論文を読んでみるとこんな表現があります.

What関係

 to what extent-どのくらいの範囲で
 what kinds of-どんな種類の○○が

あんまりたくさん挙げませんが,例えばこれだけ見てもwhatなのか,whichなのか,どちらにも当てはまるのかって,日本語感覚では出てこない表現だったりするなぁって英語論文を読んだりして思っていました(実感).
 例えば,どのくらいの範囲で?という問いだと,「ミトコンドリア症のmtDNA追加による回復は,どのくらいの範囲で効果があるのか」などという問いになるかと思うのですが,更に具体的に「人に対して」とか「哺乳類以外に対して」,「腎臓という組織に対して」みたいな範囲を追加することで,具体的にできるし,検証方法を考えることにもつながったりします.
 更に具体的にってなっていくと,方法に依存する部分が出てきたりします.例えば,どんな種類の○○が?みたいな話になると,「○〇川の河川敷には,どのような種類の岩石が見られるか」という問いが考えられますが,こうなると「分類」という方法にそもそも基づいているので,この問いになるわけで,この方法では「○○川の流域には何岩が存在するのか」という問いには実は答えられてないわけです.(いろいろな所に当てはめてみてほしいところ)なので,方法(Method)を考えること自体も,実は問いを考えることにつながると思ってはいます.あるいは道具(Instruments)が決まれば,これまたその機能によって,問いが限定されてくる面もありますので,方法づくり,道具作りも立派な研究になりますね.

 ただ,方法や問いを考えるということは,これまでの理科でほとんどやっていません.問いも方法も,教科書に書いてあるものなので.それを自分たちで考えていきましょうという取り組み自体,挑戦であることは間違いないです.こういう手続き的な知識は,できる限り宣言的なものにされて行かないといけません.
 手始めにやっていたのは,「あなたは規則性を発見しようとしているのか,分類を発見しようとしているのか?」という問いかけです.これについて考えることも,問いや方法を絞っていく助けになるのかなぁと思っています(この辺もまた後日書きましょう).

問い4:問い,仮設,検証のサイクルは何回回すべきか?

 「できるだけ小さいところからまずは.一周しましょう」

当日の発表より

という話が,当日もありましたが,私もそう思います.まずは,最初の一周を兎に角やってみること.そのためには,私は再現・追試研究をお勧めするのですが,これって問いの5にも通じるので,下記.

 ここでSTEMの話に敢えてつなげると…
 STEM教育改革において,科学的探究(Scientific Inquiry)は.Scientific Practices(科学の体験的・経験的活動)に書き換えが起こっています.それは,過去の教育改革において「探究」とか「Problem Solving」とかって概念を単純化してしまったことを反省して,「いや,それは一定のパターンで起こるものじゃないんです」というところを,もう少し強調しようとした結果なんですね.科学者がやっている活動はもう少しMessyですよと.
 なので,一つのテーマについて,いろいろな方法でアプローチしてみるという体験を,ぜひ課題研究等で体験してほしいかなと思っています.Detour(回り道)も,せっかく時間があるならしたら良いと思うわけです

高校生の声

 当日は,これまでに研究活動を経験した高校生(現大学生)も来ていまして,プレゼンしてくれました.教師側として,受け止めておきたい気持ちをまとめてくれていたので,少し紹介します.

それぞれの興味で,活動的になるのは当たり前(だった)
それぞれの活動をシェアすることで,方法論が増えた
お互いを応援しあうことは,力になった
教師が生徒を信頼してくれること

当日スライドより(やや不正確)

 ↑これらのことが,研究活動を支えてくれていたといいます.
 やはり,ちょっと違うけど同じことを進めている仲間がいるというのは良いことですね.また,教師としても色々考えるところがありました.おそらく,保護者目線でも,そういう事が大事なのね!と発見もあると思います.

問い5:高校生までの自由研究に本当に新奇性は必要か?

 さて,いよいよまとめです.問い1で,「必ずしも現実の科学者の間で既に知られていることをすべて考慮した問いや仮説ではなくてよい」ということを書きました.また,問い4では「再現・追試研究をおすすめします」というところで終わっていました.ここでは,この辺りを軸に問いに答えたいのですが…

 まず,小中学生はもちろん,高校生でも科学者が今行っている研究活動の先端を網羅するのは,ちょっと難しいのではないかと思います.そのため,問いや方法が十分なものでなくなるのは,致し方ないこと.それに,既に誰かがやっている研究と一部かぶっているのは,あり得ることかなと思います.
 むしろ,問題なのは,「既に誰かがやっている」と分かっていて,参照・引用しないことではないかと思います.この辺りは,研究倫理にも関わりますし.彼らが研究者を目指していくのであれば,大事にしておいてほしいところです.
 そうすると,調べられる範囲で,調べたら,それら研究のどれに最もやりたいことは近いのか,そして関連する研究から,どの部分を応用できるのかについて,考えるというのが,問いの設定と併せて活動の大きな部分を占めるようになるのかなと思います.あえて言語化するなら合成/統合(Synthesize)と呼ばれる部分です.研究の合成/統合は,研究者の創造性にかかっています.どう組み合わせるか=その人の研究者としての力といっても良いのではないかと思います.完全に本人の中でしか起こり得ないことですので.育てていってほしい大事なポイントです.

 それと,「再現・追試」についてです.
 実は,問いがなかなか生まれない理由の一つに,「そういうことをやったり,考えたりしたことがないから」というのがあります.実は,これは真偽で言ったら「偽」なんですけど,中学生・高校生ぐらいになると,正否でものを捉え始めてしまっていて,「正しい問い」という仮定をもってしまい,それを作らないといけないという暗黙の制約と戦っている場合があります.
 「偽」である理由は,いわゆるクリエイティブ・ライティングとかする場合に,人は全く経験していないようなことを書くことが出来ます.これは,小さな子供でもできることです.むしろ,大人になるほど創造性は落ちていくというデータもあります.なので,問いを作る行為が,経験がないからできないということは,ないと思っています.とは言え,上記のような制約がある子に,そんなことを伝えても効果はないので,「まずはやってみたら?」というのが,いいんじゃないかと.
 過去の事例で,問いを立てる数は,無からよりも,一つ論文を読んでから,圧倒的に増えるということがありました.まずは,先行研究を一つ読んでみるというのが,良いかなと思います.たくさん読むに越したことはないですが,ここではまず第一歩を踏むことの方が大事なので,複数のテーマの論文を出してみて,まずはタイトルで興味が湧くものからスタートするなどすると良いかと思います.

 これだけ書いて,再現・追試について書いていませんでした.皆さん,再現・追試ってやったことありますか?高校までの理科でやる実験は,ほとんどが再現研究になっているはずです.つまり,前に誰かがやった実験をそのまま再現(reproduce)するということです.追試(replication)とは分けているんですが,ここでは置いておきましょう.
 それで,今の科学は「再現性の危機」というのが言われておりまして,再現研究・追試研究をしたがらないし,したとしても論文として発表されないという問題があります.これは,そうとう「教えて」いかなければならないものだと思っておりまして,できれば高校生までには認識しておいてほしい問題の一つでもあります.課題研究として,再現・追試に取り組むことは,結構この問題の解決に貢献するのではないかと思いますし,実際再現しない場合に,「なぜしないのか」という問いはもちろん,「どこが上手く行かないのか?」と考えていく過程は,結構面白いものになっていくんじゃないかと思っております.

まとめ

 さて,随分筆が進んでしまいました.ここまで読んでくださった方,ありがとうございます.課題研究・総合的な探究の時間・総合的な学習の時間・STEM教育などなど,こんな感じで考えられるところは考えてきております.何か,お役に立つようでしたら幸いです.

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