STEM教育 STEM教育の本質

InquiryかPracticeか

 STEM教育改革のなかで,何が一番大きな変革ですか?と問われると,おそらくとても大事なことは,InquiryからPracticeに捉え方が変わったということです.これが,おそらく内容でも,知識でも,技能でも,方法でもない何かに,科学教育の目指すところが変わったことを意味しているのです.

使用される語の変化

A Framework for K-12 Science Education (NRC, 2012)では,エンジニアリングが科学的な活動の中に位置づけられ,科学的な”Practices”(Michaels, Shouse, & Schweingruber, 2007) が,科学的な”Inquiry”に対応する語として使用されている.Bybee (2011),によれば,科学的な”探究”は,科学的な”体験的・経験的活動”の一形態であり,習熟,学校で教科を徹底して学ぶこと,ある目的のために知識を活用することなどが,その例である.

A Look at Relationships (Part I): Supporting Theories of
STEM Integrated Learning Environment in a Classroom –
A Historical Approach

 Practiceは,Inquiryに対応する語として使用されている.これは,あらゆるSTEM関連文書を通じて,徹底的に使われているので,STEMの時代の科学教育において,Practiceが強調されているという言は,頷ける.
 では,いったいなぜPracticeなのか.

なぜPracticeか

Scientific Practicesには,何かをすることと,何かを学ぶことが事実分割できない方法において,何かをすることと何かを学ぶことが含まれている.

Michaels, Shouse, & Schweingruber, 2007

 実際に,Doing ScienceとLearning Scienceは分割できないものですよということ.だから,Practiceなんですよ.と.?Inquiryだって,Doing Scienceの一形態じゃないの?ということで,前述のようなBybeeの表現になるのでしょう.InquiryはPracticeの一形態.ただしBybeeは,同じ文書のなかで,

“科学的な探究”は,期待されていたほど広く実践されてこなかった.

Bybee (2011)

とも言っていて,狙っていることをより詳細に説明したり,別の言葉で説明したりすることで,どうにか浸透を図りたいというのも,あるのでしょう.事実,アメリカの教育改革では繰り返し,同じことが言われています.この辺は,日本もまたしかりでしょう(しっかりやりすぎて,言うたびにやらなきゃならないことが増えているようにも見えるという弊害はありますが).

それはどういう変化を実際にもたらすのか

この意味合いにおいて,SILEにおけるS(科学)は,Inquiryに加えて,Practiceにおける”見え方”が変わってくるであろう.どんな変化だろうか?それは,生徒にとってどのように働くだろうか?それは,Inquiryの良さを残しているだろうか?

同上

こういう風に,使用される語が変わると,研究者だけではなく,現場にも色々と影響があるのですから,「それって何?」という声は,当然聞こえてきます.Inquiryに慣れている方は,その良さをスポイルすることはないの?という疑問も当然あるでしょう.

こうした議論は,Dewey(1913,1938)の指摘した,興味(Interest)と努力(Effort)の統合を巻き込むことになるだろう.Deweyに言わせれば,努力は内容を暗記する努力のことではなく,彼らの(生徒の)興味のニーズを満たすためのものであるはずだ(松岡,2007).Deweyの言うように,Practiceはその活動が必ずしも彼らの興味と直接的に合致していなくても,努力となることができるだろうか?あるいは,それが受動的でインスタントな喜びから興味を引き出すものとなるのだろうか?

同上

ここは,ちょっとアイロニックに書いていますが(直訳すぎてすみません),要するに活動的な授業にしようという意味でPracticeをするというのは良いのですが,単に子どもたちの瞬間的な興味関心を得るというだけでは,Inquiryの真髄を外してしまう恐れがある.本当に科学者がやっていることはより複雑(Messy)で,いわゆる「科学の方法」として,単純化して表すことができるものではない(AAAS, 1991).より紆余曲折を経て,知識は生み出されている.その過程をDoingするというのは,なかなかに大変なことです.子どもたちの興味と直接的には関係していないであろう学習課題を,どうにかして子どもが努力できるものにしていく.これも,教師の努力の一つということで,SILEには必要不可欠でしょう.

まとめ

 ということで,ここではInquiryからPracticesに変化してきたことについて,まとめています.それぞれ,一連の大きな変化の結果として,現れたものですからもっと追究すべきことでもあります.

(Visited 198 times, 1 visits today)

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください