STEMの実践的課題 STEM教育 ポジションステートメント

エンジニアリングに取り組むこと

 STEM教育においてE(エンジニアリング)に取り組むことは,これまで高校までのカリキュラムにエンジニアリングを入れてこなかった日本はもちろん,多くのSTEM実践国において,新しい内容であることは間違いない.授業と評価の一体化,目標と実践と,評価の一貫性を何度も刷り込まれてきた私たち日本の教員にとって,「何を教えるのかわからないもの」を,授業の形にするということは,正直気持ちがいいものではない.

取り組まなければならないパラドックス

 子どもたちのアクティブな学びを引き出す上でも,エンジニアリングは有効に働くであろうとは考えられるのだが,ここでもあるパラドックスに取り組まなければならない.

教師の側としては、授業の準備のため、また、評価規準に対応するためにも、何を教えたらよいのかということをはっきり定義したい一方で、生徒中心の学修は、彼らの興味関心から来るのであ って、特定の学問分野としての準備から来るものではない.

PBL としての STEM 教育 ~理科あるいは技術はコアとなり得るのか~

 STEM教育において,エンジニアリングをどう捉えるかということと関係してくるが,答えが一つに定まるのであれば,エンジニアリングである意味がなく,科学の結果を当てはめているのであって,それは科学の応用(Application of Science)といった感じのものではないか?これについて,エンジニアリングとかぶってはいるだろうが,一対一対応するものだとするには,語弊があるだろう.

 日本の学校で取組むには,どうしてもここに障害(Constraints)があって,エンジニアリングに取り組むことと,理科や数学の学習内容を満たすことは,イコールになりえないのだ.これは,やったことがある人には理解してもらえるのだが,やったことがなくて理想論を言っている人には,わかってもらえない.

具体的事例を見てみましょう

 例えば「自分の座れるいすをつくろう」という教材を作ったとする.

齊藤・奥村・熊野(2014)発表スライドより

 この教材のどこがS,T,E,Mなのかを同定し(左上),それがスタンダードや指導要領上どこに当たるのかを確認(右上)し,教材をつくり(中断),エンジニアリングの活動(左下)に取り組ませたとする.しかし,その活動がエンジニアリングとして取り組まれている限り,エンジニアリングとしてしか評価(右下)できない.スタンダードや指導要領上の概念を満たすとは「限らない」(ここが重要)のだ(ここが正に指導と評価の一体の話です).
 むしろ,エンジニアリングの学習サイクル(DDOモデル;左下)や,それに基づいた評価(右下;ここはNGSSから来ているが,日本人の私でも評価規準が書けます)の方が,具体的なパフォーマンスベースで評価することができる.が,何度も何度も書きますが,それは理科としての評価,数学としての評価ではないのです.

まとめ

 ということで,STEMにおいてエンジニアリングを行う上では,ここのところをきっちり解決する必要があって,そこに対する回答なしに「STEM」をやっていますとは,とても言えないわけで,きっちり考えていきたいと思っている.その辺のポジションをきちんと取れていない研究が,英語圏でさえ多く,世界的にも,まだまだ,十分な議論は成されていないと思っています.

(Visited 147 times, 1 visits today)

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください