STEM教育 STEM教育の本質

STEMが統合された学習環境:SILE

 STEMが統合された学習環境は,おそらくこれまでに一度も目にされたことがない学習環境でしょう.私達はSTEM Integrated Learning Environmentと呼んで.SILE(ザイル)と略しています.おそらく,これがSTEM教育の本丸となるでしょうから,きちんと議論していかなければならないし,説明していかなければならないものと考えています.

STEMの統合について定まった説明がなされておらず,議論も不十分

 STEMを実践する多くの方が,以下のような問いを持っているのではないだろうか.

「STEMの統合ってどういうこと?」
「これまでの科学教育とどう違うの?」 

 言葉を変えれば,私達はそれをSTEMと呼んではいるものの,実際に行われている実践は,必ずしも4つのSTEM分野の自然なつながりを反映しているとは限らない(Katehi, Pearson, & Feder, 2009)

A Look at Relationships (Part I): Supporting Theories of STEM Integrated Learning Environment in a Classroom – A Historical Approach (Saito et al. 2016)

 この文を書いたのは2015年のことで,出版されたのは2016年のはじめの頃でしたから,日本ではそこまでSTEMの実践をしている方も少なく,ほとんど海外における実践も含めた気持ちで,書いていました.実際,英語で論文を書こうという気持ちも,こうした実情をもっと訴えていく必要があると感じていたためです.

STEM教育の定義がなければ,何を教えてよいのかわからない

 これは,STEM教育の定義自体が明確でないことと,教室においてSTEM教育がどういう見え方をしているべきかを確立する難しさからきている.「統合」そのものを描写する理論的な枠組みが限られていること (Roehrig et al. 2012) ,いくつかの記述は明快でないこと (Wang, 2011) などが,その理由である.定義をしてほしいという多くの要望があるにもかかわらず,誰かが言明したとしても,それに賛同するものは非常に少ない (Bybee, 2013). こうした理由から,STEMは科学者が一連の複雑な観察をたった一つの単語で置き換えることができるような,科学的な用語ではなくなってしまっている (Yager, 2015).

同上

 こうした状況は,今でも変わっていないでしょう.アメリカでは,日本と違って,国の教育省などの(文科省にあたる)政府機関が,示したことをそのまま学校レベルでも実行するということが,ほとんどありませんので,「国としてSTEMをこう定義します」みたいなことがありませんし,逆にそれをせずに各州の議論を促して,それぞれに合った形で教育が成されることを善しとする文化があるようです.ということで,私個人としては,日本も国としてどうこう言わずに,議論が盛り上がる場を醸成するのがいい方略ではないかとは思っています.とはいえ,全くとっかかりがないというのも,難しすぎる話なので,以下のように類型化を図ってみることにします.

定義は出来なくても方向性を類型化することはできる

 私達は,STEMを定義しようとする代わりに,STEMの取り組みのいくつかの方向性を見出してみることにします.例えば,STEM教育法(2015;現在はSTEAM教育法に改訂済2017)には,3つの分類が示されています.「単一のSTEM分野に焦点を当てたもの」,「複数のSTEM分野に焦点を当てたもの」,そして「統合的な取り組み」の3つです (House of Representatives, 2015) .

同上ただし,STEAM教育法については,追記

統合的なアプローチの重要性とは?

こうした類型を生徒中心の考えから見ていくと,統合的なアプローチの重要性が見えてきます.このSTEM教育法の分類と似たものは,以前からあって, Fogarty (1991) は,カリキュラムを統合する10個の方法を示しており,この10個を「単一の分野のなかで」「複数の分野をまたいで」そして「学習者の中で,あるいは学習者のネットワークをまたいで」という3つに分類している.こうした,類型は,STEMの学習が統合される様子を示唆している.

同上

統合はどこで起こるのか?

 第1に,学習が単一の学問分野の中で統合される場合,教科を個別に分割する伝統的な教室で統合は起こることになる.第2に,STEMの学習がいくつかの学問分野をまたいで統合される場合,教師同士の協力や教科の再編を導くことになるだろう.したがって,統合は教員同士のミーティングやカリキュラム再編を通じて起こることになるはずだ.第3の類型は,おそらく生徒中心主義の考えに最もフィットしているが,学習者の内面や,そのネットワークの中で統合が起きる場合,生徒らの学習や,そのコミュニティ,あるいは彼らの頭の中で,統合が起きることになる.こうしたモデルはまた,STEMの統合が,統合が学習環境のあらゆる場所に偏在する (Olson & Labov, 2014),「学習の生態系」 (Bybee, 1997; Cobb, Confrey, diSessa, Lehrer, & Schauble, 2003) あるいは「教育のシステム」 (Pestalozzi affected Huxley, 1899 and Spencer, 1864; as cited in DeBoer, 1991, p. 211) を構築することになることを示唆している.そこで,私達はそれを”STEMが統合された学習環境”(STEM Integrated Learning Environment: SILE)と名付け,提案している(齊藤・熊野, 2015

同上

 論文の本文にも注釈で入れていますが,現代の教育システムの基礎を作ったとされるペスタロッチやスペンサー自身も,学校の中で現実世界が複数の教科に分けられてしまうことに違和感を持っていたようです(DeBoer, 1991).私自身は,この事をもって,今すぐに教科の再編であるとか,教科に分けられた枠組み自体を変更すべきだとは思っていません.ただし,考え方としてSILEのように,あらゆる学習がつながりあってシステムを作っているという状態は,目指したい目標であって良いのではないでしょうか.
 SILEの詳細や理論的な部分については,別記事を立てて,また御紹介したいと思います.

(Visited 72 times, 1 visits today)

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください