STEM教育 STEM教育の本質 ポジションステートメント

STEM/STEAM教育とは

 この投稿では,STEM教育の定義についてまとめています.「これ」と一つに決められるものではないですが,読者の方なりの定義を作っていく参考になるようでしたら,幸いです.ちなみに,STEAMについては,まだ定義ができるほど議論がしっかりされていないと判断しておりまして,Aの部分について,ここでは詳細に触れていません.

いいわけ

「STEM教育の定義をしたほうが良いと思いますか?」
 ある学会の研究会で,講演させていただいた際に,参加者の方に問いかけた言葉です.私は,ずっとSTEMの定義は曖昧にしておいた方がよいと言ってきました.理由は,多様な取り組みを引き出すため(集団的創造性),そしてSTEMができている,できていないと線引をすることを割けるためです.
 そもそもSTEMは政策からスタートしているものなのは,別途触れました.アメリカの政府としてトップダウンなことは,基本的にはやっていないので,そのために「STEMとはこれだっ!」っていう風に,言ってないのです.彼の国は,これによって,国内の創造性を高めているとも言えます.いいわけですが…
 もう一つは,STEMリテラシーというものは,一生かけて育っていくものであって,今この瞬間にそれを持っているか持っていないかという線引をさせたくないという意図があります.本当は,こっちの方が大事な意味なのですが,それが伝わるには随分時間がかかると思いますので,ここでは触れるだけにしおきます.また,別の機会にこれについては,書きましょう.
 これとは別に,学問としてSTEMをやっていくためには,十分に理論に裏打ちされた定義が必要だと思っています.そこで,本ページでは学界に限定して,STEM教育がどのように定義されているかをまとめ,私自身の定義を更新していく作業を進めたいと思います.読者の方で,それぞれ志向が違うとすれば,自分に合ったものを見つける一助にしていただければ,幸いです.

現時点での齊藤なりの定義

答えが複数ある問題に対して,STEM分野の知識や見方・考え方を統合的に働かせて,文脈に適 した解決策をつくり・調査し・試行し・改善し・提案し・議論する一連の活動を通じて,それぞれの分野で期待される資質能力の育成のみならず,単独の分野の学習ではなし得なかった,全体性や相互関連性についての理解を深め,そうした理解に基づいた態度・学びに向かう人間 性などを養う.

齊藤(2019.10.3-随時更新)

こちら,理論的な表現,指導要領的な書き方をするとこんな感じでしょう.

別解

• S/T/E/Mをばらばらに教えるのではなく
• 実際に,現実世界でつながっている様に,子供が体験することで
• 各分野の見方・考え方を統合的にはたらかせて
• 自分が「本当に解決しなきゃ!」と思っている問題から(ニーズを知ることで)
• 自分の手でも解決できる課題を設定して
• 科学や数学の方法を使いながら学び
• 課題の「解決策」(テクノロジー)を提案・構築
• その妥当性を議論し(「妥当」は新指導要領用語)
• できれば改善し(教科の中では時間的制約あり・総合なら可)
発表(コミュニケーション)する
ような活動を通して,
赤字部分ができるようになっていく 体験的・経験的活動

齊藤(2019.10.3-随時更新)

こちら,より実践的な書き方.8Practicesを意識しています.現代の学校で,あまり取り組めていない部分を特に入れています.

 以上,私なりの現時点でのSTEMの定義です.以下,これに至るまでに参照してきた,先哲の御意見を一つ一つ引用・コメントします.見つけるたびに追加し,必要があれば,上記定義を更新します.

世界の研究者は何と言っているか

Bradely大学より

What is STEM Education?
STEM education is an interdisciplinary approach to the
teaching and learning of science, technology, engineering,
and mathematics. A STEM educator is a leader in
supporting and guiding students with diverse interests,
abilities, and experiences make sense of scientific ideas.

STEM教育は,科学,テクノロジー,エンジニアリング,数学を教え,学ぶための学際的なアプローチである.STEM教育者は,多様な興味,能力,そして 科学の概念を理解する経験を持った子どもたちを支援し,ガイドするリーダーである(齊藤訳,以下同).

Bradely大学

 このように「学際的なアプローチ」という表現は,時たま見かけるのですが,それ以上具体的なところにつながっていかないのは,それが多くのものを含みこもうとしているからなんですね.そのため,定義だけを見てもSTEM教育のイメージがわかないところにもつながっていると思います.

科学教育研究者:Bybee(BSCSディレクター,NGSS編者の一人)より

A true STEM education should increase students’ understanding of how things work and improve their use of technologies. STEM education should also introduce more engineering during precollege education. Engineering is directly involved in problem solving and innovation, two themes with high priorities on every nation’s agenda. Given its economic importance to society, students should learn about engineering and develop some of the skills and abilities associated with the design process.

本当のSTEM教育は物事がいかにはたらくかについて子どもたちの理解を向上させ,彼らのテクノロジーの使用を改善するべきだ.STEM教育はまた,大学入学前にエンジニアリングの活動をより多く導入するべきである.エンジニアリングは,どの国のアジェンダにも高いプライオリティとして示されている2つのテーマである,課題解決とイノベーションに直接的に関わる.その社会に対する経済的な重要性を考慮すると,子どもたちはエンジニアリングについて学ぶべきであるし,デザインの過程にまつわるスキルや能力を開発するべきである.

Bybee (2010)

 Bybeeさんは,BSCS,NGSSにも関わる大御所的存在.その著作はかなり参考にさせていただきました.この定義では,彼はエンジニアリングをやはり強調していますね.これまでになかった部分を理解してもらうには,やはりそこに触れていかないと難しいですよね.

政治的な見地のまとめより

From a policy perspective,such as the view of STEM from the NSF and legislative organizations, or from an educational perspective like most K-12 agencies/school districts, STEM is often considered a traditional disciplinary coursework (science, mathematics, technology, and engineering) lacking an integrated approach.
Thus, the most important modern conception of STEM education might be the notion of integration—meaning that STEM is the purposeful integration of the various disciplines as used in solving real-world problems (Labov, Reid, & Yamamoto, 2010; Sanders, 2009). This STEM education perspective involves viewing the separate disciplines of science, technology, engineering, and mathematics as one unit, thus teaching the integrated disciplines as one cohesive entity.

NFSあるいは政策に関わる組織などの政治的な見地から,あるいはK-12学年の教育機関あるいは学区のような教育的な見地から見れば,STEMは,ふつう統合的なアプローチを欠いた,伝統的な教科(理科,数学,技術,工学 [注:あえて日本の分野名で書いています])のことをいう.したがって,最も現代的なSTEM教育の概念といえばおそらく統合の考え方にある-すなわち,STEMは現実世界の課題を解決するために利用される複数の学問分野の目的を持った統合なのである(Labov, Reid, & Yamamoto, 2010; Sanders, 2009).このSTEMの見地は S,T,E,Mの分割された学問分野を一つの単元として観ることを含んでおり,したがって統合された学問分野を一つの一貫した実体として教えることも含んでいる.

Breiner et al. 2012

文科省の資料から(議論が始まっている)

Science、Technology、Engineering、MathematicsのSTEM分野が複雑に関係する現代社会の問題を、各教科・領域固有の知識や考え方を統合的に働かせて解決する学習としての共通性を持ちつつ、その目的として①科学・技術分野の経済的成長や革新・創造に特化した人材育成を志向するものと、②すべての児童生徒に対する市民としてのリテラシーの育成を志向するものとがある。

資質・能力の育成を目指す教科横断的な学習としてのSTEM/STEAM教育と国際的な動向(松原,2019)

まだ途中,他にも色々あるので,追々追加していきます

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