そろそろSTEM教育の学校での実践事例を,聞くようになりました.STEMはその名前から,理科の時間や技術の時間で,やるのかな?という意識があるかと思うのですが,前にもエンジニアリングに取り組むことについて書いたように,教科の目標との整合性については,しっかりと検討していく必要があります.
S/T/E/Mの定義の問題
STEM教育をどう教科の中でやっていくのかというのは,一つの大きな課題です.
科学(Science) ≠ 理科(Rika)
テクノロジー ≠ 技術(Technical Education)
エンジニアリング ≠ 工学(Engineering Science)
同じなのは数学くらい?(STEMのMはどこにある?)
科学と理科もイコールとは言い難く,テクノロジーやエンジニアリングの定義も,日本に輸入されて以降,日本なりの技術や工学の定義が出来ていますので,ピッタリとは行かない上に,今回STEM教育改革において,それぞれこれまでとは違った明確な定義が示されています(これについては,後日書きます).
したがって,日本の教科の伝統的な「内容」や「方法」についての理解の範疇に収めるというのは,少し難しいのかなと思います.むしろ,これらS/T/E/M(左側)から,いかに教科に対して良いところを抽出して持ってくるのかといった視点で考えてみるのは,一ついい方法かもしれません.
学校でSTEMを実施するということ
以上の定義の話を前提とすると,学校でSTEMを実施していく上では,3つの方略があると考えます.
- 一つひとつの教科の中で実施する場合
- 複数の教科を併せて実施する場合
- 総合などの合科的な教科の中で実施する場合
すなわち,今ある枠組みのなかで,いかにそれを実施してくことができるのか.そうでないなら,どのように変えたら良いのか.ということを,考えていく必要があります.
1.一つの教科の中で実施する場合
一つの教科の中で実施するということは,例えば理科の時間の中で,エンジニアリングに取り組んだり,数学的な活動を取り入れるということでもあります.皆さん認識しているように,そうした活動に取り組むことは,教科の目標を達成できない,あるいは教科で習得させたい知識・技能を習得させられないという事態が起こりえます.逆に,そうならないのだとしたら,エンジニアリングに取り組めていないか,ガチガチに決まりきったものづくりをさせて,STEMの良さをスポイルしているということでもあります(ちなみに,数学Mはその他のSやEと親和性が高そうですが,逆に数学の目標は達成できるの?ということもありますね).
これについての解決策は「教科の目標を書き換える」ということでしょう.しかも,これまでの教科の伝統がかすくむぐらいに大きな改変が必要になります.私個人としては,これはおいそれとやるべきではないと考えていますし,そう簡単なことではないと考えます.
もちろん,一つの選択肢ではあります.ただし,一個人や一学校がこれを決定するわけでは今の所ないので,私としては学会の一発表ぐらいにして,あくまでも議論のトピックとしての話に留めています.
とは言え,学習指導要領が最低要件だとすれば,そこから枝葉を伸ばして,STEM統合の芽を生やしていくことは,悪いことではありません.
2. 複数の教科を併せて実施する場合
これは,現時点では教科の目標を変更することなく,なんとか実施していくことができるだろう,一つの方法です.例えば,カリキュラム・マネジメントであるとか,地域に開かれた学校のようなものを本当に実現してくためには,学校の教育目標を「社会の中から持ってくる」というやり方も考えられますね.
それが,STEM領域の関わるような社会・科学的な問題(Socio-Scieitific Issues)などから,持ってくると良いわけですけども,おそらくここでもそれを地で行ってしまうと,教科の目標から外れてしまうので,あくまでも形の上で,どことどこの学習がつながっているのかというのを確認するところから始まるのだろうと思います.
小学校はもちろん,中学校などで教科の先生が異なる場合,おそらくSTEMをつなげるのは,職員室で起こる,あるいは先生方の頭の中で起こることになってくるのだろうと予想します.まずは,ここから始まるのかなという感じがしています.
3. 総合などの合科的な教科の中で実施する場合
それで,本命なのがこちらなのですが,まだまだ十分な議論が足りていない部分でもあります.総合的な学習の時間,総合的な探究の時間,理数探究などですね.
STEMの統合は,学習者の脳内か,学習者のネットワークの中で起きる
Saito et al. 2016
総合などの時間で,教科を超えて考えていかなければならないような大きな問題に取り組むことで,STEMは自然と統合される.しかも,学習者の内面で.
「生徒中心主義」的な学習を,地で行くとして.
それが,アクティブ・ラーニングでも
主体的・対話的で深い学びでも良いのですが
統合は,学習者の内面で起こる.あるいは,学習者のネットワークの中で起こる.だから,それをきちんと評価する方法が確立できていない(イマココ)のですね.彼らが,自分でつないできた証拠を,しっかり示すことができたら,やっと第一歩です.
この話は,SILEのところでも書いていますし,論文でも何度か触れていますので,そちらを御参照いただければと存じます.また,現在証拠集めをしております.公開できる時期が来たら,それは別途御紹介できればと思います.