STEM教育 STEM教育の歴史

STEM教育改革は何を目指しているか-アメリカのSTEMにまつわる状況から

 STEM教育の起源については,いろいろなことが言われていて,STEMの語源だったり,教育改革としてのスタートだったり,もう少し中身まで踏み込んでどこから始まったのかといったところまで,様々です.
 ここでは,中身のところまで詳しくは書きませんが,興味のある方は,こちらをご参照ください.また本稿は,これまでに書いた論文の中から,抜き出して論じたり,少し補足情報を含めたりしております.
 私たちは,2013年頃からSTEM教育研究と実践を進めてきましたが,まずは,私達がSTEMについて始めた頃のアメリカにおける状況から,STEM教育改革が何を目指して進められてきたのかを,紹介してみたいと思います.

 多くの国々が教育改革としてのSTEM教育について急速に認識しはじめている.
 その改革の目的は何であるか,日本にとっての課題は何か.こうしたことは,まず認識されなければならない.
 アメリカにおいては,大統領科学技術諮問会議(PCAST)がPrepare and Inspire: K-12 Education in Science, Technology, Engineering and Mathematics (STEM) for America’s Future (2010)やEngage to Excel: Producing One Million Additional College Graduates with Degrees in Science, Technology, Engineering, and Mathematics (2012)などのレポートを出しており,STEM分野の労働力を増やすための科学教育改革のスローガンとしてのSTEM教育のみならず,私たちの世界における「イシューズ」を解決できる機知を備えた市民を育成することを目指している.
 Bybee (2013)は,これまでの教育改革とSTEM教育改革との違いについて,①市民が理解すべき地球レベルの課題に注意を向けていること,②環境や関連する問題の見方を変えていくこと,③21世紀の職能について認識していること,④安全保障の問題について長期的に見ていくことなどを挙げている.これらに加えて,STEM教育の向上を期した国家的な呼びかけは,教育スタンダードを具体例に,政策にも影響を及ぼしている.したがって,各州はエンジニアリングをスタンダードに含めることを決定したり,異なる分野の教員同士が共同することの必要性が指摘されてきている(Roehrig, Moore, Wang and Park, 2012). 次世代の科学スタンダード( Next Generation Science Standards:NGSS)が,2013年の4月にリリースされ,「エンジニアリングデザイン」が,科学教育の構造の中に統合され,科学的探究と同程度強調されることになった.
 ある米国内の調査によれば,エンジニアリングの技能や知識について,既に41州のスタンダードに見られるとされる.これらのうち多くの内容は科学や技術あるいは職業教育のスタンダードに見出されている (Carr, Bennett, & Strobel, 2012). 米国においては,数学と英語の共通する州のスタンダードが既に45の州によって採択されており,教師らはこれらのスタンダードをもとに,コースを作り,教科書を選び,授業を行っている.教師らによるこうしたスタンダードの適用にかける取り組みは甚大なものである. Roehring ら(2012)が指摘したように,学校においてはSTEMを統合するカリキュラムが必要とされているし,それに合わせて普段の実践を変更し,STEMを統合させた授業を実践するという課題に直面している教師らのための研修が求められている.

Saito et al. (2015)

 実はBybeeさんは,連邦政府レベルで言われていることから,更に踏み込んで述べていたりするので,それを最初に受け止めた私達は,やはり超領域性(Trans-disciplinarity)を中心としたSTEMキャンプなどから始めたという記憶がある.BybeeはNGSSの作成に関わったりして,STEM教育改革においてはなかなかの中心人物だが,彼がこう書いたからと言って,米国全体がそうなる訳ではないのが米国らしさなわけで.その前後から多様な実践事例が展開されているのが現実だ.

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