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研究の回り道について

 研究は回り道(Detour)をするもの.一度は体験したことのある方なら,誰もが分かっているものと思われます.課題研究,総合的な学習(探究)の時間,理数探究など,教科の枠を越えて,探究を進めることができる時間には,本当はこういう回り道を経験してほしいものです.
 けれども,実際に子どもたちがそこまでの時間をかけて,探究に取り組むという事例が積み重なっていないので,上手くいっていない部分があるのかなと思います.
 そこで,ここでは研究の回り道について書いてみます.

なぜ回り道(Detour)か

 日本語で言う21世紀型能力の議論は,世界的に進んでいますが,アメリカでは21st Century Skillsの名前で,議論が進んでいます.

21st Century Skills のうち,一定の順序のない 課題解決(Non-routine Problem Solving)は,創造性やメタ認知と関係する等,列挙された複数のスキル同士は影響しあっている。問題解決や発見的教授法,ラーニングサイクル等,既に学習段階説は多く提案されているが,そのどれもが様々な過程が提案されたり,「一般的なヒューリスティックがあるとは考えにくい」(Bruner, 1961)といった研究者の意に反して「一般的な」ものと捉えられる傾向 がある.

齊藤(2017ab)

 そもそも,問題解決というのは,ある一定の手順で解決できるようなものではない.でも,「なんとなくこういう順序でいくようにしていくとうまくいきますよね?」という種類の手順が,学習段階説みたいなものに置き換えられていって,先生方にとっては,手順書みたいになっていた.
 けれども,本来は子供の中にこうしたアイデアが育つことを期待するべきだし,実際に育ったのかどうかというところの証拠が集められなければならないはずです.

 この話は,かなり長い間されているにも関わらず,変わっていない部分でもあると思います.例えば「這い回る経験主義」みたいな批判で,ずっと流されてきてしまった.その理由は,「理想」は述べられているのに「実践」をどのようにしたら良いのかが,はっきりと説明出来てこなかった.また,説明をしないことで,自主性を大事にする考え方を背景にしているためかもしれません.
 当然ながら,データのとり方みたいなものも,十分でない.だから,作っていかなければならない.というのが,私の主張です.

8つのPractices

 新しい「次世代科学スタンダード」(Next Generation Science Standards,2013:以下NGSS)と,その枠組を定めた「科学教育のための枠組み」(A Framework for K-12 Science Education, 2012)においては,科学とエンジニアリングを統合する手立ての一つとして,科学とエンジニアリングの体験的・経験的活動(Science & Engineering Practices略してSEPs; 訳:熊野, 2012)を示している.

表1:8つの科学とエンジニアリングの体験的・経験的活動
 ScienceEngineering
Practice1疑問をもつ課題を明確にする
Practice2モデルをつくり、 用いるモデルをつくり、 用いる
Practice3調査を計画し、 実行する調査を計画し、 実行する。
Practice4データを分析し, 解釈するデータを分析し、 解釈する
Practice5数学を用いて 計算的思考をする数学を用いて 計算的思考をする
Practice6説明を構築する解決策をデザインする
Practice7証拠にもとづいた
議論を展開する
証拠にもとづいた
議論を展開する
Practice8情報を手に入れ、
評価し、交流する
情報を手に入れ、
評価し、交流する
(訳:齊藤, 2013; 2014)

Cascade of Practices

 8つのPracticesと併せて議論が進んでいるのは,これらの活動がCascadeであるというところです.Cascadeは直訳を探すと,「滝」などといった訳も見られますが,どちらかと言うとコンピューター用語でのカスケード(段階的接続)というような理解に近いのではないかと思います.
 滝の例で言えば,一か所から流れ落ち始めた水は,カオスのように見えて,あるルールに従って,下まで落ちていく.ある探究の始まりは8つのPracticesのどこかはわからないけれども,流れを作ってゴールまで流れていく.同じく,コンピューターでいうカスケードも,あるところからコードが始まると,一連の流れを次々に実行していくといった形で,探究の流れのメタファーになっています.

STEM教育における8つの科学とエンジニアリングの体験的・経験的活動(Practices 訳:熊野, 2012)を Cascade と捉える研究者は、子どもたちが行進する科学の方法等、固定的な順序に抵抗している( Bell&Van Horne, 2011 )。メタ認知の視点からは、 学習者自身が学習の過程を管理することに意義があり、その過程で学習環境やグループ、教育的介入がいかに影響するのかについて、把握する方法を構築していく必要がある。

齊藤(2017a)

このあたりについては,博論関係で少しデータを取っていましたので,紹介.
グループ研究の活動の中で「次にはどのPractice」に進もうと思いますか?と質問した結果です.

Saito (2017b, p.50)

 例えば,このグループAでは,4人の進もうとしているPracticesが結構バラけています.

Saito (2017b, p.51)

こちらのグループは,3回めくらいから実験の計画と実施に完全に入っていって,おります.

 このように,一つのグループの中でも,探究に対する志向は異なっていること.また,グループとしてまとまってくる様子などが見て取れました.このような,探究の時間に伴う変化は,今後見ていかなければならないポイントの一つだと思っております.問題はこれをどう観るかですね.

PRC解析

齊藤(2017a)

 例えば,この図のようにそれぞれのグループをまとめて,時系列で分析できるPRC解析のようなものは,使えるかもしれません.もともとは,群集生態学の研究者で,例えば農薬の効果をフィールドにいる種ごとに分析するなどの文脈で利用されているものです.

 これを観ると,一つのグループの中でのばらつきからすると意外なほどに,どのグループも同じような見え方をしてきます.個の傾向と,システムとしての傾向がここまで違ってくると,がぜん興味が出てきますね.

 PRCの使い方については,これから更に深めていきたいと思いますので,また別記事で触れましょう.
 その他,STEM教育関係の記事は,こちらをご覧下さい.

References

斉藤 智樹, 奥村 仁一, 熊野 善介(2014)インフォーマルなSTEM教育の一環としてのサマーキャンプにおける理論とその実践(STEM 教育の理論とその実践~日本・米国・インドネシアとの研究交流をもとにして~),課題研究発表, 日本科学教育学会年会論文集, 38 巻, セッションID 1A1-D1, p. 287-290,

齊藤智樹(2017a)STEM 教育における探究過程と課題発見に関する実践的研究 データにもとづいたSTEM 活動への介入と分析法の探索的事例研究,理科教育学会第67回全国大会(福岡)

Saito, T. (2017b). A Research on Creativity in STEM Integrated Learning Environment Based on Task Specific Approach (Doctoral dissertation, SHIZUOKA UNIVERSITY).

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